「想像力」と「本質」をかけ合わせ、まだ誰も見たことがない世界の設計図を作る
コンセプトアーティスト/デザイナー 有里
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クリエイターPC DAIV
映画やゲームなど、作品ごとの世界観を視覚化する“設計図”といえるのが「コンセプトアート」。そんなコンセプトアート作りの第一人者であり、書籍『世界観の作り方』も上梓している有里さん。そんな有里さんに「PARTNER」というテーマで作品を制作いただきました。日々描いている「まだ誰も見ていない世界」は、どのような思考プロセスと、どんな技術から生まれているのでしょうか?制作ただいたイラストと一緒にその“秘密”に迫ります。
有里さんの過去作品
作品や企画の方向性を視覚化し、共有する
「コンセプトアーティスト」という職業名は、まださほど一般的ではないかもしれません。コンセプトアートとは、映画やアニメ、ゲーム、CM、イベントや実際の都市開発など、その作品の世界観や伝えたいことなどを視覚化し、プロジェクト内で共有することを目的とするアートです。
様々なコンテンツ制作の初期段階で描かれることが多く、プロジェクト内にいらっしゃる色々な役割の方との打ち合わせを通じて、その作品の世界観というか具体的な“世界”を、1枚あるいは数枚の絵に落とし込んでいきます。コンセプトアートがあることで、その作品に関わるメンバー全員が同じビジュアルイメージを共有でき、同じ方向へ向かっていけます。なので非常に大切なポジションであると同時に、プレッシャーを感じてしまう職業でもあります。
好きで描いていた絵が、たまたま「コンセプトアート」と呼ばれるものだった
とはいえ私の場合、最初から「コンセプトアーティストになろう」と思っていたわけではないんです。子どもの頃から漠然と「絵を描く仕事をしたい」とは思っていて、美大に入りました。アクリル絵具で巨大な作品を描いたり版画を刷ったり、写真を撮ったり、金属を溶接してみたりと、まぁ色々なことをやっていました。
そして絵と同時に旅行も好きで、学生時代にもあちこちへ行きました。「まったく知らない景色の中に立った時の感動」が「RPGゲームで空想の世界を訪れたときの感動」に良く似ていて、自分が想像した世界を歩けたら素敵だな、という考えで、ゲーム会社を進路にすることにしたんです。新卒で入ったゲーム会社で運良く背景デザインの仕事ができて、その面白さにどんどん惹かれていきました。
ですから、実はコンセプトアーティストと呼ばれることにはあまり馴染みがないんです。2Dデザイナーとして色々な世界のデザインを考えていたら、それがコンセプトアートのカテゴリに分類されるものだった、という印象ですね。
自由に飛翔するアイデアと“本質”とのかけ合わせが「想定外」を生む
コンセプトアートを描くときは相手を”いい意味で驚かせよう”と心掛けています。そのため、アイデアを出すときも、あまりストレートには考えません。
例えば「ファンタジーの森」を描くとしたら、実際の森以外のところからアイデアの種を引っ張ってくることが多いですね。連想ゲーム的に思いついたワードから検索していったり、森というものの本質から考えてみたり。そうすると、結果として「木は地面から生えてなくてもいいのでは?」とか「色ももっと自由でOK?」、「生えているのはいっそ植物じゃなくてもいいのかも!」という具合に膨らんでいきます。“森”というものの既成概念を一旦忘れて、自由に考えてみる感じですね。
ただしあまりにも自由すぎると、それはもはや“森”ではなくなってしまいます。「そもそも森とは何か?」という本質からは離れず、しかしそこに新しく考えたものをかけ合わせることで“新しい景色”を作るというのが、日々やっていることです。そして、それが結果として「“想定外”に繋がっているのかな?」とは思います。
キャラクターの“語られていない個性”を背景画で語る
私の場合は描き始める前のリサーチを最も大切にしているというか、時間が許す限りリサーチを行います。それをしないことには、絵に説得力が生まれないんですよね。過去に「竜宮城の温泉街」という温泉地をテーマにした世界を制作した際には、知人が経営している温泉宿の内部を隅から隅まで見せていただきました(笑)。
仮にリサーチが雑であったとしても、背景をデザインすること自体は可能といえば可能です。でもそれをやってしまうと、どうしても作品への“入り込み度”が低くなってしまう。ゲームでも映画でも、主役は主にキャラクターですが、私たちがしっかりとした仕事をすれば、キャラクターの“語られていない個性”を背景で語ることができ、作品の世界をより深めることができる。それこそが、私たちの重要な役割のひとつなんじゃないかなと思っています。
完成作品「旅するDAIVハウス」
今回、DAIVを使って「PARTNER」というお題で「旅するDAIVハウス」という作品を描かせていただきました。絵を描くことは私にとって仕事でもあり、趣味でもあり、息抜きでもあるので、1日のほとんどをPCの前で過ごします。そういった意味では私にとってPCは時間を共に過ごす相棒ですし、今回使用したDAIVの筐体にタイヤ(キャスター)が付いていたので「いっそのこと筐体を住居兼乗り物にして、どこにでも一緒に行けちゃうようにしよう!」と考えました。
このDAIVハウスの持ち主である少女は10代後半のクリエイター。音楽を制作しているのか、それとも私のように絵を描いている少女にするか迷ったのですが、結果として「あちこちを旅しながら絵を描きたい」という私個人の願望をそのまま反映させました(笑)。
細かい設定でいうと、この少女はDAIVで旅をしながら絵を描いていて、かつ多趣味なんです。なのでギターや漫画など“自分が好きなもの”もこの乗り物に詰め込んでいますね。あとちょっとしたこだわりとしては、バイクのデザインにDAIVのロゴを忍ばせたところです。
コンセプトアート制作工程
工程1:ベース部分のリサーチ
背景(コンセプトアート)のデザインをするうえで、ここが一番重要だと思っています。描く対象物についてのベースの知識がないと、“説得力のあるデザイン”にはならないんですよね。そのため時間の許す限りしっかり調べて、自分自身が納得できるようにしています。今回でいうと描きたかったのは「キャンピングカー的なもの」でしたので、キャンピングカーの内装というのはどうなっているのか? 水回りはどうなんだ? 寝るスペースは? そもそもどんな設備が必要なの?――といったベースの部分を、描き始める前の段階でリサーチしました。
工程2:設定を含めたリサーチ
ベースのリサーチがある程度完了したら、次は「その絵の中の世界ではどんな人が、あるいはどんな生物が暮らしているのか? その時代は? 周囲の環境は?」といった“設定”を含めたリサーチを行います。その際には、そこに住んでいる人や生物の“日々の暮らし”をイメージしながら考えることを大事にしていますね。“画面に入らないところまで考える”というのでしょうか。これを行うことで、デザインに面白さが生まれるんだと思っています。
工程3:アイデア出しとラフおよび本番制作
より正確にいうと工程2と工程3は被っているというか、同時に行っていますね。設定を含めたリサーチに基づいてアイデアを出し、ラフを描く。“イマイチな点”があればさらに調べ直して、アイデア出しをして、ラフを描いてみて、ということを繰り返します。自分が納得できるもの、面白いと思えるものへと研ぎ澄ましていく、といったニュアンスです。
巨大なカンバスサイズで膨大なレイヤー分けをしてもスムーズに作業できる
背景デザイン画は、街の全体図やワールドマップなど、広範囲を描くことも多いですし、仕事によっては何百ものレイヤーを重ねて、ファイルサイズが2GBくらいになることもあります。 私がメインで使っているノートPCはかなりハイスペックなものではあるのですが、大きなファイルサイズのデータはどうしても処理待ちの時間が長かったり、レスポンスが遅いことがプチストレスでした。
データを開く際や保存のスピード、レスポンスの速さは作業効率にとても影響します。ペンで線を引く際にほんの少し反応が遅れるだけでも、すごくストレスが溜まるんですよ。でもDAIVを使用してみたところ、重いデータの作業の際にある、そういったストレスがとても軽減され、作業効率が上がりました。
処理落ちしやすい3Dソフトとフォトショップで同時に作業をしても、問題ありませんでした。あとは筐体のデザインもシンプルなので、家に置いていても景観を損ねない点も気に入りましたね。DAIVがあれば、処理落ちが多くて使うのに二の足を踏んでいた3Dソフトにも挑戦できそうです。
有里(Yuuri)
コンセプトアーティスト/デザイナー
元ゲーム会社勤務。在籍中は2Dデザイナーとしてゲームやアニメ映画の背景・キャラクターデザイン、作品のメインビジュアル等を担当。2018年秋頃に退職、フリーランスに転身。現在もゲームやアニメ作品のコンセプトアート・背景デザイン・イラスト等を中心に活動し、CGWORLDや専門学校での講座講師も担当。2021年6月に初個展「いせかい探訪」を開催。著書に『世界観の作り方』(翔泳社)がある。
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