芸人とクリエイター、
創作意欲を加速させたPCの存在
芸人とクリエイター、創作意欲を加速させたPCの存在
お笑いコンビ・霜降り明星として活躍する粗品。
YouTube公式チャンネル『粗品Official Channel』では自身が手掛けたボカロ曲を披露しており、音楽の分野での活動も目覚ましい。
今回、ユニバーサルミュージックの協力のもと立ち上げた自身のレーベル「soshina」から、レーベル第一弾曲「乱数調整のリバースシンデレラ」をリリースし音楽活動を本格的に開始する。
本作「乱数調整のリバースシンデレラ」の作詞作曲には自身で購入したDAIVを使用。ミュージックビデオの監督も行い、全体をディレクションした粗品と映像クリエイターのTSO(とさお)に見どころとこだわりをインタビューした。
作詞・作曲:粗品
MV監督:粗品
作詞・作曲&MV監督
2歳からピアノを始め、絶対音感を活かし常に音楽の活動も行ってきた。芸人として数々の受賞歴を誇る傍ら、近年アーティストとしての活動も広がり、2020年にはついにボカロ楽曲を発表。「#みどりの唄」は公開と同時にTwitterトレンド入りを果たすなど話題となった。そして 2021年いよいよ音楽活動の本格化に向け、自身のレーベル“soshina”を設立。
声優
6月23日生まれ、埼玉県出身。リンク・プラン所属。『けいおん!』の中野梓役をはじめ、『五等分の花嫁』中野二乃役など、人気作品のメインキャラクターとして多数出演。朗読劇やドラマへの出演など多岐にわたる活動を精力的に行う。
映像クリエイター
映像クリエイター。シンクロトロン・スタジオ所属。
学生時代は美術大学で版画を専攻。その後、独学で、3DCGや映像制作を学ぶ。ボーカロイドのMV制作を初めニコニコ動画の黎明期から活動。代表作は、『Bad∞End∞Night』シリーズ、『リングの熾天使』など。ロゴデザインやイラスト制作など活動は多岐にわたる。
イラストレーター
九州出身のイラストレーター。関東の美術大学を卒業後フリーランスとして活動を開始し、現在は書籍やゲームを中心にイラスト作品を制作中。透明感のある作風を得意とする。代表作はナルニア国物語挿絵など。
粗品:髪型ですかね(笑)。芸人の時はオールバックにしているんですが、レーベルとしての粗品の場合はセンターで下ろしています。分けてるってことを伝えたい意味合いもあって。
レーベルを立ち上げた大きな意味として、ちゃんと音楽をリスペクトしているっていう気持ちを表に出したかったんです。もちろん、本業はお笑い芸人なんですけど、第一線で活躍されている音楽家の方々に失礼が無いように、本気で真剣に音楽に向き合いたいっていうことを示したいというか。とはいっても、本質は一人の僕がやっているのでエンターテインメントというひとつのカテゴリ―の中で芸人をやっている粗品と音楽をやっている粗品がいるって感じです。
粗品:音楽との初めての出会いは2歳の頃に習い始めたピアノで、そこから10年間続けてました。その間に中学生になって、ギターを始めたり、ベースを触ってみたりとか。高校生になってからはクラシックにも興味を持つようになって、指揮者を目指していたんです。友達を10人くらい集めて、楽器のパートごとに採譜して草野球みたいに草オーケストラを作ったりして。学生生活と並行して楽器やら音楽にはずっと関わっていましたね。
一番最初にピアノを習い始めたのは親の影響ですけど、習いに行かされているという感覚はなくてずーっと楽しかったんですよ。音楽が自分に合っていたというか、ほんまに芸人にならなかったら指揮者になりたいなって子供の頃から思ってました。シンプルに音楽をすること自体が夢だったので、夢がかなっていてとっても嬉しいです。10年前の自分に言ったらびっくりするだろうなって。
粗品:小学生の時に、アカペラでオリジナル楽曲を作ってて歌が好きな友達の前で披露してました。その後、中学高校でDTMに出会うんですが、それはもう衝撃で。無料のソフトを使えば、マウスでクリックするだけで曲ができるその感覚がすごいなって。中高の同級生で同じようにDTMを使っているやつに教えてもらいつつ作詞作曲を本格的に始めました。
高校生になってからはボーカロイドに出会って、部活も入ってなくて家にいることも多かったのでニコニコ動画でいろんな曲を聞いてました。週間ボーカロイドランキングっていう今流行りの曲をまとめてくれる動画があったんですけど、それをずっと見てましたね。それが、「俺でもボーカロイド使って曲って作れるの?」って気付きに繋がりまして。発表こそしてなかったですけど、当時の安いフリー音源で2曲くらい作ってました。
初めて作った曲ははっきり覚えていて、中高くらいのときかな、カノン進行で黒鍵なしの本当にシンプルなもので。それが実は、2020年5月にボカロPとして初めて発表した楽曲の「ビームが撃てたらいいのに」の元になりました。
粗品:今まで、YouTubeで何曲か楽曲を発表しているんですけど、今回の「乱数調整のリバースシンデレラ」は歴代最多のトラック数になります。
それこそ、クリエイターの方々のドキュメンタリー番組で楽曲制作の密着を見てたときに「トラック数めっちゃ多いな!」って思ってたんですよ。トラックもソフトの中で見えないからスクロールしてたりして。今回の「乱数調整のリバースシンデレラ」はスクロールしてます(笑)。僕も今までこんな経験なくて。ほんま史上最多の音数ですね。
歌詞も今までで一番時間がかかって、二日三日ぐらいあーでもないこーでもないって考えながら試行錯誤してました。
曲の楽しさを演出していった結果かなとも思いますし、自分自身の成長も見られたというか、音量とかリバーブとか細かいところもこだわったのでぜひ聞いてほしいです。
粗品:一流音楽家の方々と今の丸腰へっぽこ音楽初心者の粗品で、どう戦おうかなって考えたときにぱっと浮かんだのが視覚的な要素だったんですね。
音楽の凄みや良さは敵わないとしても、見せる物であるMVだったらお笑いの要素も入れられるだろうし、ここで戦えるんじゃないか?っていう想いから構想を練りだしました。
イラストレーターのソノムラさんに描いていただいた絵を見させていただいて、「ここの表情をこうしていただけますか?」「もう最高です!」とか、映像クリエイターのTSO (とさお)さんにも動きの部分で「コーラスのつなぎ目はパンアップでどうでしょ?」「もうちょっとゆっくり5秒時点から上げてもらえませんか?」「流石です!」なんてやりとりをさせていただきまして。本当に心の底から楽しいんですよ!
そもそも、今まで動画の制作に携わったことが無かったので、ソノムラさんとTSO (とさお)さんにはめっちゃ感謝してます。
僕は、お笑い芸人として色々させてもらってますけど、100%自分のやりたいようにできることって漫才のネタかピンネタくらいなんです。ありがたいことにレギュラー番組も十何本あるんですけど、そこではスタッフさんとディスカッションして番組を作ったり、作家さんが考えてくれた企画をプレイヤーとして最大限面白くする側に回ったりすることもあるので。R-1グランプリで優勝した年にご褒美特番をさせてもらったんですよ。台本も演出も全部僕がやったんですが、その時の愉悦と言いますか、ほんまに嬉しかったんですよね。ありがたいことに反響もずいぶん頂いて。MVの構想はそんなことを考えながら作りました。自分で台本描いてコンテでイメージを伝えて動画の動かし方まで監修できる今の環境がほんまにありがたいですし、あの時のようにワクワクしてます。青春って感じですね。
粗品:芸人になって一番悩んでいたことが、やりたいことに対する「圧倒的な技術と知識不足」だったんです。やりたいと思ったことがあっても、どうしていいかわからないんですね。例えば、陣内智則さんみたいな映像を使った面白いネタを作りたい!と思ってもわからないんですよ。映像を作れる知り合いもいなければ声の当て方、レコーディングはどこでするのかとかわからんことが山ほどあって。僕の中でそこが最大の課題でした。でもM-1グランプリで優勝してから徐々に仲間が増えていったんです。テレビのスタッフ、技術さん、音声さん、照明さん、舞台監督さんに足りない部分を補ってもらって、なんとか自分の好きなことをやらしてもらってて。
音楽でもその部分の壁が一番大きかったですね。技術も知識もない中でボーカロイドの楽曲を出したいって思ったのでめっちゃ勉強しました。それでも、マスタリングが下手くそ、ミックスが終わってるっていうのは自分が一番よくわかってるんですよ。そんな中で、レーベルを立ち上げて、ユニバーサルミュージックさんの全面バックアップもいただいて、本当に恵まれた環境にいるなと心から思いました。
そこでMV監督をさせてもらうってなるんですけど、正直自分一人じゃ何もできないんですね。自撮りをiPhoneのカメラで編集するくらいが手一杯。そんな中で、イラストレーターのソノムラさんと映像クリエイターのTSO (とさお)さんの二人が自分の思ったものを全部表現してくれたことは本当にありがたくて、頭が上がらないです。
知識がない分、できるできないっていう初歩的なところから質問させていただいて自分の無理なお願いもずいぶん聞いてもらいました。とってもキュートなキャラクターが命を吹き込まれて動いているっていうこと自体が普通じゃないなって。
粗品:僕はいろんな音楽をよく聞いているんですけど、ほんまは聞いたことのない音楽を作ってみたかったんです。でも、それってほぼ不可能なんじゃないかと気づいて。どんな曲を作っても誰かの作った曲に似ることはあるし、手法だって既に誰かがやってるものがほとんどじゃないですか。長く聞かれている曲の中で不協和音が続いているものってないし、聞いたところで耳に馴染まないですよね。
だから、今後は「見たことのない音楽」を作ってみたいなって思っています。聞いたことないは難しいけど、見たことないは作れるんじゃないかって。そのために脳みそフル回転させて聞いてくれるみなさんをびっくりさせたいです。今回の楽曲もぜひ、「音楽として見たことない!」って言っていただきたいですね。
TSO (とさお):粗品さんから初めに非常に精密な字コンテと構成案を頂きました。その字コンテに沿って私が絵コンテを起こし、それを元にイラストレーターのソノムラさんにイラストを描いていただいた流れになります。ディレクションも非常に細かくしっかりしてくださったので、「この人は本当に芸人なんだろうか?」っていう気持ちになりましたね(笑)。
粗品さんの曲はどれも魅力的で、曲ひとつひとつに入れ込んでいるギミックや想いも非常に深いので、クリエイターとしてリスペクトもしながら制作を進めていきました。人を引き付けることが本当にうまいというか、「どんな工夫をしたら見ている人たちを楽しませられるんだろう?」という粗品さんが作られたギミックをMV全体に散りばめつつ想いを形にできるよう頑張りました。
曲全体を通して明確なビジョンを持たれていたので、カメラアングルやトランジションにもしっかり指示をいただきました。的確なディレクションのおかげで、とても作りやすかったです。
TSO (とさお):イラストを使用したMVになるため平面と3Dのオブジェクトを組み合わせたときに自然に見えるように工夫をしています。そのまま配置してしまうと、どうしても奥行きがでずぺらっとした印象になってしまうので。キャラクターを引き立たせるためにも3D表現の方が好ましいのではないかと思い、当初のプランから変更しPCの負荷が高い3Dでの背景を制作したりもしました。
MVの中に出てくる「カウンター」は特に大きなポイントになります。粗品さんから重点的にオーダーが入った部分でもあるので、非常に印象深かったです。カウンターの数字があるギミックと共にどんどん光りながら上昇していくんですが、そのときの細かい粒子の散り方やスピード、光らせ方についてはこだわって演出していただきましたね。
また、ソノムラさんが描いてくださった主人公の彩宮すうちゃんがとてもかわいらしいので、その魅力が上手く引き立つように背景や演出面に気をつけました。楽曲の中に「ズキューン」というというフレーズが本当にかわいくて。そこに合わせてカットを作っているのでぜひ見てもらいたいです。
TSO (とさお):ソフトをいくつ立ち上げても問題が発生しない軽快さは非常に重要だと思います。
今回のMV制作では、CINEMA 4DをメインにAfter EffectsとAdobe Animate、Photoshop、Illustratorなどさまざまなソフトを使用しました。MVの冒頭シーンでお姫さまが夜景を眺めるシーンがあるのですが、そこの街並みは全部3Dで作っているんです。オブジェクトの数が膨大になるので、レンダリング面で不安があったのですが、非常にサクサクとプレビューもレンダリングもできて使いやすかったですね。他の部分ですと、映像の中にシャンデリアが出てくるんですが、光の反射が多く複雑な要素があるとレンダリングが長くなることもあって。色々なこだわりを盛り込めたのもハイスペックPCであるDAIVが負荷をいとわない動きをしてくれたからこそだと思っています。
TSO (とさお):映像を最終的に編集するのは自分なので、粗品さんの思い描くイメージを形にするための映像的な部分でのトリックやカメラの動きは今まで培ってきた技術を生かせた部分でもあるのではないかと思っています。CINEMA 4Dで書き出したリアルな素材を今回のイラストやMVのテイストに合わせてAfter Effectsを使って調整し、キャラクターにマッチした背景を作れるように自分で工夫しています。そういったこだわり部分もぜひ見てもらいたいです。
とにかく、粗品さんの発想が素晴らしいので最後までMVを見てびっくりしてほしいですね。