5億年ボタン 第13話のアニメーション制作でDAIVのPCを使用!

INTRODUCTION

2024年9月30日、3DCGアニメーション「5億年ボタン」の新作エピソードが公開。
前作に引き続き、原作者の菅原そうた監督が自宅のPC1台を駆使して、
ほぼ一人で脚本・構成・3DCG制作・編集などを手がけ完成させた。
映像制作にはAIによる最新映像技術も使用され、
昨今ではAIによる画像生成などが盛り上がりを見せているが、
最新技術によって実現したアニメとはどのようなものだったのか。
今回は菅原そうた監督のインタビューにより、最新の技術を用いたアニメ制作を語ってもらった。

5億年ボタン… そのボタンを押すと
100万円が出てくる…
その代わり5億年間何もない空間で
過ごさなくてはならないというバイト…

しかし、5億年経った瞬間、
記憶は消され元の状態
押した本人の感覚では一瞬で
100万円というバイト…

5歳のトニオ 14歳のジャイ美 17歳のスネ子の3姉弟は
入院中の父親の治療費が払えず
途方に暮れていた…
そんなとき 3姉弟の前に、
5億年ボタンをもった人物が
現れるのであった…

トニオ

(A型)
ちょっとおませな5歳児。
カワイイ見た目とは裏腹にニヒルで不思議ちゃん。
いつも変なことばかり考えている。
中二病的だったり哲学的な思考を巡らせることもある。

ジャイ美

14歳(B型)
学校のアイドルでありながら番長。
モデルの仕事もこなす傍ら喧嘩では無敗。
アイドルバンド「鼓膜破り」のセンターとしても活躍している無敵の天然少女。

スネ子

18歳(AB型)
主席の生徒会長、思慮深い、正義感が強く優しいリーダー肌。
人望も厚い傍ら、むっつりスケベ。
PCにも詳しくみんなには内緒でVtuber活動も行っている。
頭蓋骨に穴を開けるトレパネーションを行ったこともある。

井上博士

年齢不詳(O型)
道で遭遇するたびに異常に話しかけてくる近所の不審者。
詳しいことは不明。
いろいろ発明したりするらしい。

菅原そうた
マルチクリエイター
1979年東京生まれ。STUDIO SOTA代表取締役。
1999年漫画家としてCG漫画『みんなのトニオちゃん』で連載デビュー。
その後、3Dアニメ監督として2011年「gdgd妖精sシリーズ」や 2014年「Hi☆sCoool! セハガール」、
2018年「でびどる!」に携わる。mmdを駆使し、商業テレビアニメ作品の先駆けとなり、
昨今のVtuberのようなアドリブCGアニメ作品に多く携わる。
2022年には自身が漫画家時代に発表した「みんなのトニオちゃん」の中の1エピソード「5億年ボタン」を
アニメ化。全12話をほぼ一人で制作し、TOKYO MXほかにて放送・配信された。2024年9月、2年ぶりの続編となる第13話を発表。今後、第14話制作に向け、精力的に活動中。

INTERVIEW

01

ほぼ1人でTVアニメ制作を完結

ほぼ一人でアニメ制作を実施されたということですが、通常はたくさんの人数と時間をかけて制作されると思います。どうやって一人で制作されたか教えてください。

菅原監督

 ソフトが進化しているので、強いパソコンがあれば色々なことができる時代になったと思うんです。プログラマーさんのゲーム開発や、スマホのアプリ開発はもちろん、漫画家さんでも、イラストレーターさんでも、ミュージシャンでも、3DCGでも、映像編集制作するYouTuberさん、ミュージックビデオの映像監督などでも、いろいろなジャンルの事をパソコンで出来るようになってきているので、その一環で総合芸術のアニメでも、その波が来ているのだと思います。

 よくよく考えて一人だと、冷たい感じもするかもしれないです。
映像作成こそ一人ですが、実際は音声を収録する時にもちろん声優さんもいらっしゃいますし、声優さんの音声をとるミキサーさんや、ミキサーさんの補佐の方もいらっしゃって、音を取るタイミングで手伝ってもらった人も含めると、まあ一人じゃないというか、最終的にはみんなで到達していると思います。
あと音楽を作ってもらったり、今回のアニメは13話なんですけど、1話から12話までのタイミングでは、オープニング映像とかエンディング映像を自分でも作れるんですけど、上手く作ってほしいと思って外注してますね。

 アニメは企画、脚本、キャラデザイン、3DCG、映像編集などの分野があり、ひとりでは、網羅できにくいですが、僕は30歳前までいろいろなジャンルの端っこで活動していたので、漫画家、CDジャケットなどのデザイン、ミュージックビデオの監督、3DCGグラフィッカーで3D動画を作成し、ニコニコ動画に動画をアップして活躍しているMMDerなどいろんなことをやってきました。その経験が全部複合的に重なり、いろいろソフトを使いこなせるようになりました。
それを一つに集約してアニメ監督などを担当できるようになったのが十年前で、全部つながってブレイクみたいなことが起きたんですけど、その時も一人じゃなくて、ニコニコ動画で有名なモデラーさんとかモーションの人たちにお声がけをして、その人たちと一緒に協力してgdgd妖精s(ぐだぐだふぇありーず)っていうアニメをTOKYO MXさんで初めて放送させてもらって、それがアニメ監督をやる人生が始まったタイミングだったんですけど、それが2011年ぐらいでした。
その時にアドリブで声優さんに演技してもらって、そのアドリブに沿って3DCGを作るみたいなVTuberの先駆けみたいなことをやってたんですけど、2011年ということでめちゃくちゃ早かったんです。1クール、2クール、そして映画までやったんですよ。映画が2014年くらいにやって、MXやアニメ界隈では流行っていたんですけど、YouTube界隈の人にはなかなか広まってなくて...

 それからは10年間くらいみんなで一緒にテレビ制作などを手を組んで関わってやってきました。基本的には10人くらいのグループでやってたんですけど、コロナになって、2年間ひきこもり生活をしている最中に、一回遊び心の悪乗りの実験で、「ひとりでやってみた」をやってみようと思ったんです。脚本を書いて、Vコンをつくって、キャラデザをして、3Dモデルを作って、モーションを作って、レンダリングして、映像編集をしてアニメをまるまる取り掛かってみようと。今までみんなで分業していたことを全部1人でやってみようと思って、「5億年ボタン」が出来上がりました。12話を3DCGでアニメをつくるのはめちゃくちゃ大変だったのですが、2年間かけてとりかかったったらなんとか出来上がり、1人でも時間をかければなんとかできることが分かりました。

 でも1人で作ってみると思うこともあって、今までの仲間たちと一緒にやってきたのに、自分でもできた!となると、僕は嬉しいですが、一緒にやってきた仲間たちからすると「バンドメンバーでやってきたのに、いきなりソロ活動始めてしまった」みたいな。他の仲間たちからすると、早く戻ってきてというのもあるかと思うので、バンド活動もしながらソロ活動もしていければいいかなと思っています。
ただ「音楽」や、「効果音」は著作フリーの音源を買ってきて使っていたのですが、テレビアニメとしてはプロのにお願いしようと思い専門性のある人たちに協力してもらってます。

 僕が思うのは、意外とアニメってアニメの絵ばかり注目されがちで、作品も実は半分音楽なんですよ。映像と音楽両方で楽しいんですけど、なんか後で考えたら映像ばっかりが記憶に残ってて。でも見てるときは音楽の面白さが半分ぐらいあるみたいな。なかなか音楽関係の方の名前は出されないのですが、僕は十分わかってて自分が出つつ、音楽面は絶対いい人たちでお願いして、声優さんもそうですし、そういったところでは専門性のある人たちにお願いしてますね。

では次に今回のアニメ制作でも使用された3DCGについて伺いたいです。

菅原監督

 3DCGは2000年ぐらいからずっとやってるんですけど、僕の最初の常識からすると、CPUでレンダリングするのが当たり前の時代だったりするので、CPUが8コアとか、まあ頑張って20コアぐらいでレンダリングするとクオリティ高いのは1秒間に30フレームあって、30フレームのうち、1フレームをレンダリングするだけで一時間かかったりするんですよ。24時間かけても24フレームで1秒しかできない。これ物理的にそのクオリティでやっていったら、15秒CM一本とか、映画のワンシーンしか担えないんですけど、そのCPUっていうところから今はGPU(グラフィックス)の時代が来ました。

 3DCG業界はあんまりグラフィックスを利用してなくて、今までだいたいCPUに処理させてたんですけど、グラフィックスに処理させるっていうことがゲーム業界から起こってきました。ソフトが20個ぐらいあったら2、3個だけグラフィックスに依存してるソフトがありまして、これらのソフトはリアルタイムでレンダリングされるので、それでテレビアニメを作っていこうっていうことが始まって、僕としてはグラフィックスによってリアルタイムレンダリングができるようになったところから、長尺の30分アニメも担えるようになりました。

グラフィックスの登場が世界を変えたのですね。
色々とお話しいただきましたが、今回のアニメ「5億年ボタン」のこだわりを教えてください。

菅原監督

 5億年ボタンは単体で盛り上がっておりまして、YouTuberさんとか2ちゃんねらーさんとか都市伝説とか哲学界隈で10年にわたって、いろんなところで流行ってくれてます。ネットでは5億年ボタンについて語ろうというスレッドが何回も出て、毎回すごいしゃべってくれたりとか、YouTubeではいろんなYouTuberさんがピックアップして、たくさん語ってくれたりしてて、結構ネットミームとしてインターネットで流行ってる一個の題材みたいな感じで5億年ボタンが存在してました。その5億円ボタンで盛り上がってらっしゃる人たちと、僕の今までやってきた3DCGのgdgd妖精sのような作品はファン層が別々なんですが、その両方のファン層が今回のアニメコンテンツに関して楽しめると思います。

 ただ、実はいざ5億年ボタンです!って告知を出したら、今までのgdgd妖精sのファン層の方は「ああ、gdgd妖精sの延長だ!」みたいな感じで楽しんでくれたと思うんですけど、もともと5億年ボタンで盛り上がってくれた人たちが全く来てくれないと...で、これがなんだろうと思って、本当ならやってることを知ってもらうためにその宣伝を僕はしなきゃいけないんです。多分、いろんな人に連絡しなきゃいけなかったんですけど、ちょっと僕の手違いで、体が一個しかなくて、作品を作ってるとそこに時間を割けずに..。
5億年ボタンが放送する直前に「さあ、やるぞ!」って言った時に、監督としての僕は作りまくってるんですけど、プロデューサーとしての僕の脳みそがショートしちゃって(笑)
作品を作って放送していただけて終わりというところで、もっとアニメの前から5億年ボタンで盛り上がってた方々と協力して、彼ら一緒になにか盛り上がれたら良かったと思いました。彼らがネタにしてくださったおかげでミームとして盛り上がったので...
今はまだぜんぜん繋がってなく存在自体知られてない可能性すらあります。今後じわじわ知っていってもらえたらと思いますし、後で評価される作品だったらいいなと思います。

 あ、あとバランスですね。すみません、話が戻ってしまうのですが。
萌えアニメ作品を好きな人たちと、もともとWebやYouTubeで5億年ボタンを知ってくれる人たちと両方がバランスよく楽しめるような感じの塩梅に作ろうと心がけました。
5億年ボタンの1話~12話まで(今回は13話が公開)は人生の遺作になるようなすごい話ばっかり入れちゃおうと思って、カントの哲学、純粋理性批判、色即是空、ニーチェとか宗教の死んだらどうだろうなみたいな結構深い話ばっかり出ちゃって。でも一話一話深いのが好きな人はたまらなくて面白いって言ってもらえたんですけど、深いのが好きじゃない人からしたらアニメなのにこんな深い話求めてないよっていう人もいるかもしれない。
なので、今回はちょっとあのその本気の哲学みたいなところじゃなくて、ライトなSFエンターテイメントみたいなところを目指して、五次元ボタンという話を一回を作りました。 今までよりも分かりやすい内容になっていると思います。

02

3DCGアニメの映像制作とパソコンの関係性

ここまではアニメのことについて語ってもらったのですが、ここからはPCとアニメの関係について伺いたいです。今までは自作のパソコンを使われていたということでしたが。

菅原監督

 はい、1話から12話まではそうでした。

今回はDAIVを使って、3DCGの制作をしてもらいましたが、以前のPCと比較してどうでしたか。

菅原監督

 前はお金をいくらかけてもいいから、一番良いものが欲しいと思ってました。パソコンさえ強ければ、それでアニメ作れるから回収できると思ったんですけど、今回使わせてもらったDAIVは70万円以内じゃないですか。なのに全然動作したっていうのは驚いて、前のパソコンは300万円ぐらいのパソコンだったのに、60万円のパソコンでも差がなくできたので、すごいなあと思いましたね。どちらもNVIDIA GeForce RTX 4090を積んでいて、グラフィックスは同じなんですよ。CPUは自作の方が上なんですけど、僕の作業がもうグラフィックスに依存しちゃってる作業体制だったので、意外とグラフィックスさえ良かったらなんとでもなるっていう。同じぐらいパワーがあって驚きました。使用感としてはバッチリですね!

グラフィックスの進化という話もありましたが、やっぱりグラフィックスがこういった動画制作作業では依存するし、CPUよりも重要みたいな感じですか?

菅原監督

 そうですね。これからの時代は特に重要になってくると思います。これしかないっていうパソコン買うなら、マウスのDAIVがいいぞっていう。

ありがとうございます(笑)
参考としてお聞きしたいのですが、趣味の範囲でクリエイティブな作業をするのに必要なパソコンはどの辺りになると思われますか。

菅原監督

 趣味の範囲でいうと、僕は親戚に中学生の男の子とかいるんですけど、僕が親だったら絶対パソコンを与えてるのになと思います。
みんな高いから買わないですけど、ゼロイチだったら、6万円ぐらいのパソコンでもいいじゃんって思うんですよ。パソコンが1台あると、そのパソコンによって編集ソフトも開けるし、ウェブでもいろんなサービスがあって、スマホじゃ出来ないサービスもあるんですよ。なので6万円のパソコンでもいいから、まず手に入れるといいと思います。スマホで何でもできる便利な時代で、SNS用の動画も作れますがやはり簡易的です。パソコンを購入することで色々なことが出来るので、安くていいからとにかく手に入れてくれって感じがしますね。
その上で絵師さんとか、もうちょっと一歩踏み込みたかったら、グラフィックス付きとかタッチパネル付きのパソコン買ってもいいけど、まずはゼロからイチを体験してくれっていう感じで、低価格帯でもパソコンをお勧めしたいですね。デザインやロゴ、イラストや漫画などの静止画だったら、低価格のパソコンでも制作できますので。

03

3DCGアニメーション制作の今後

今後はどのような作品を手掛けていきたいですか?

菅原監督

 5億年ボタンの続編をいろいろつくっていきたいですね。まずは#14。 あとはAIの可能性がありすぎるんです。AIがあらゆることができるハブになっちゃってるんで、これもできるあれもできるになっちゃって。インターネットがない状態だとこれしか職業なかったけど、インターネットがある状況になったら何ができますか?みたいな質問に近いです。インターネットがあったらこれもできるし、あれもできるしで、いろんなことが増えすぎちゃって。

 まず5億年ボタンのアニメは続けつつ、例えばAIで存在しない美少女を作ってアイドル業界に対して、AIアイドルやAIタレントを作るかもしれないし、バラエティ番組を作ったりとか。
他にも16個ぐらいあるんですけど、これを全部言っちゃって大丈夫ですか?これをやると取り留めもなくなっちゃうんで、今回はやめときましょうか(笑)

やはり今後はAIの技術が更に発展していくのでしょうか?

菅原監督

 簡単じゃないですかAIって。AIは遊んでる感覚だったり、検索して何か出す感覚で画像とか作れちゃうんで、全員がAIを使えるようになっちゃうと全員クリエイターになってしまうなと。そうなったら元々のクリエイターがどこまで生きていけるのかみたいな。

 今はまだギリギリ「もっとこうしたい」という詳細を的確に指定したりとか、こういう動きがやりたいっていう時には動画だったり、3DCGを使わないと、なかなか思い通りのものが出来上がってこないんで、まだAIが過渡期のタイミングでは、3DCGが有効に働くとは思うんですけど、そのうち有効に働かなくなったらやばいかもしれないですね。車の自動運転みたいな誰が乗っても早くて、完璧な運転ができるような時代になっちゃったらドライビング能力が要らなくなっちゃうから、そうなる前の時代だったら、ドライバーがまだ生きていけるっていうことかもしれないですけど。

 あと怖いのが自分が死ぬほど頑張って作った3DCGよりも、AIの方がクオリティ高いのできちゃったりするんですよね。その時にAIに乗り換えるべきか、自分の画風を貫くべきか二通りある感じがしますね。ただ僕は自分の画風にあんまりこだわりがないといいますか、上手くなっていけるなら、どんどん上手くなっていっちゃえばいいじゃんと。技術大好きだから技術を取り入れていく感じで。

 例えばあるアニメやゲームの1(初代)の画風があったとして、続編の2になって3になってクオリティが上がっていいじゃないですか。でも、こだわりがあって、1の画風がいいんだよっていう気持ちだったら1のままで止まってると思うんですよね。昔から続いている漫画やアニメとかそういうタイプだと思うんですけど、そういう漫画の画風で頑なにこの画風が完成だからもう変えないとするか変わり続けるか、どっちの正義もあるんで二択として難しいんですね。そういう作品ってクオリティ上がっちゃうと、おかしいじゃないですか。この作品の画風はもうこれです。どんなにクオリティ上がっても、僕たちはこれですから!で、画風の進歩を止めるのも一個かっこよくて。

 それが作家足りえるのかもしんないですけど、僕はちょっと片足を踏み込んで進化をしつつのバランスでやろうかなと。僕はどっちかというとずっと二頭身キャラでアニメは作ってるんですよ。今回もアニメ二頭身でやってたんですけど、二頭身は二等身になりの「ああ、あの人の作品だ」ってわかりやすいんですけど、僕としてはちょっとクオリティ高いのを作りたくもあって、ただ全部八頭身のクオリティ高いものになると、八等身の萌えキャラ3Dはめちゃくちゃたくさんあるので、もう誰なのかわかんないってなっちゃいそうで、よくある中に混ざっちゃうじゃないですか。そこのバランスが難しいところですね。

 まあ、クオリティ低くても有名になれたら一番いいですよね。なんか雑でもこれはこういうもんだからということで。

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