SPECIAL INTERVIEW
「肩書きだけで
仕事は来ない」
SNSで夢を叶えた
ゆうこすの
セルフブランディング
INTERVIEWEE:
モテクリエイター/ユーチューバー
菅本裕子(ゆうこす)
INTERVIEWER:
ライター
カツセマサヒコ
イラストレーターやフォトグラファー、YouTuberなど、現在活躍しているクリエイターには、SNS上で多くのフォロワーを抱え、その影響力を武器にして活動している人も増えてきています。
今回は、「モテクリエイター」として若者を中心に圧倒的な人気を誇る菅本裕子(ゆうこす)さんに、影響力を大きくするためのカギとなる「セルフブランディング」の思考についてお話を伺いました。
インタビュアーは、ご自身もSNSでの影響力を武器にしているライターのカツセマサヒコさん。
「好意」じゃなくて、「共感」を得るために発信する
カツセ:数年前から「セルフブランディング」って言葉自体が多少の胡散臭さを持って、うわべだけの意味で使われることも増えた気がするんですけど、ゆうこすさんがこれほどまでに活躍されているのは、ちゃんと行動レベルまで落とし込んで継続しているからこそだと思うんです。今日はそのあたりについて、いろいろ聞かせてください。
菅本:聞き出してください!
カツセ:よろしくお願いします。
菅本:お願いします!
カツセ:今では出演されるイベントの多くがチケット即完売となるゆうこすさんですが、アイドルを辞めてすぐに開催した自主企画イベントでは、参加者が3人くらいしか集まらなかった経験があると聞きました。「ここからやり直すんだ、セルフブランディングをがんばろう」みたいに思ったきっかけは、どのタイミングだったんですか?
菅本:アイドルを辞めて全く仕事がなかったときに、ミスiD※というオーディションを受けて準グランプリに選んでもらったんです。それで仕事が来ると思って待っていたんですけど、全然来なかったんですよ。ミスiD準グランプリっていう肩書きはあっても、「で、何してる人?」って感じで。肩書きだけはあるけど、他に何もない子。
※ミスiD:新しい時代にふさわしい価値観やスタイルを持った女の子を発掘し、育て、従来の芸能的枠組みに縛られず、その人にあったスタイルで世に出そうというネオガール・オーディション
カツセ:ミスiDって大きな会社も関わっていますよね?いくつか仕事が来てもおかしくなさそうなのに……。
菅本:当時はネットですごい叩かれたりもしていたので……(笑)。
カツセ:ああ、依頼しづらいっていうのはあったんですね。
菅本:「元HKT48」っていう肩書きがあってもただ待つだけじゃ仕事は来なかったし、「なんかアイドルを辞めてから何も変わってない!」って気づいて。自分からアクションを起こそうと思って、Instagramで自分のことを発信しはじめました。
カツセ:「モテ」をテーマにブランディングしようと決めたのも、そのときですか?
菅本:「モテたい」って気持ちはアイドル時代からずっとあって、全然変わってないんですよ。ただ、その気持ちを男性に向けるか女性に向けるかを考えるようになりました。男性に向けると、「可愛い、俺好き。」で終わるけど、女性に向けると共感が生まれて継続的に応援してもらえるんじゃないかって。
カツセ:「モテ」の方向性を変えればファンが付く、という仮説は、やる前から気づいていました? それとも、やってるうちに気づきました?
菅本:やってるうちにですね。最初は本当にブレブレで、「モテたい」って気持ちをいろんな形で、いろんな方向に発信していました。元々フォロワーの9割以上が男性だったんですけど、続けているうちに女性からの反応が増えてきて、なんとなく気づきはじめた感じです。
菅本:で、Instagramをはじめて4,5ヶ月後くらいに誕生日イベントを企画したんですよ。そしたら、170枚のチケットが即完だったんです。その前のイベントが3人しか来なかったやつなんですけど。
カツセ:即完の一つ前が3人だったんですか!?
菅本:そうなんです!半年くらい空いているんですけど。
カツセ:たった半年間で培った結果だったんですね。すごい。
菅本:最初は「即完なんて嫌がらせや!」と思ったんですけど……思いますよね!?
カツセ:そりゃあ、前回3人だったら疑いたくもなりますよね(笑)。
菅本:そうなんです。それで怖いな〜って思いながらイベント会場に行ったら本当に集まってくれていて、しかもその半分くらいが女性だったんですよ!
菅本:来てくれた女の子に「なんで?」って聞いたら、「私もぶりっ子したいし、モテたいって思ってたけど、周りの目が気になってできなくて。そういう気持ちを発信してるゆうこすちゃんは私の代弁者なんです!」って熱く話してくれて。共感って大事なんだなって実感したんです。そのときから、男性に「モテ」を発信することはやめて、女性に向けてだけ発信する方向に切り替えました。
インフルエンサーは「憧れ」になってはいけない
カツセ:ゆうこすさんが「モテ」を全方位ではなく女性に向けて発信することを決めたように、「やらないこと」と「やること」を決めるのがブランディングの一つだと思うんです。でも、発信するためにはインプットも絶対に必要ですよね。ゆうこすさんが普段から心がけているインプットのこだわりについても聞きたいです。
菅本:「どんなジャンルでも、先を行き過ぎた情報は発信しないこと」を大切にしています。だから、インプットは普通にテレビとか雑誌とかクチコミからしていますね。それを私が「モテ」っていう切り口で発信する。「ゆうこす」っていうフィルターを通すとこうなりましたって感じで。
カツセ:そうか。ゆうこすさんのファンには渋谷にいる普通の女子高生とかも多そうですし、あんまりイノベーティブなことを言われても引いちゃうかもしれないですもんね。
菅本:そうですね。インフルエンサーってインフルエンスさせないといけないじゃないですか。そのためには実際に「マネできる」存在であり続けないといけないなと。あまりに先を行っちゃうと……
カツセ:ただの「憧れ」になっちゃう。
菅本:そうなんですよ。だから、あえて「先を行き過ぎないインプット」を心がけています。
フォロワーをファンに変える方法
カツセ:僕は「フォロワー」と「ファン」ってイコールじゃないと思っているんですけど、たくさんのフォロワーを抱えるインフルエンサーとして、ゆうこすさんはその違いをどのように感じていますか?
菅本:フォロワーは私のファンというより、私が発信する「情報のファン」なんですよね。
カツセ:なるほど。個人じゃなくて、価値ある情報を発信するコンテンツとして見られてるってことですね。
菅本:そうですね。私は「波」をイメージしてるんですけど、真ん中にゆうこすがいたら、第一波のコアなファンがいて、その周りに情報を求める第二波のフォロワーがいて。その周りにゆうこすを知らない第三波がいるってイメージ。
カツセ:うんうんうん。わかります。
菅本:私はその波を意識してSNSを使い分けていて。第一波が盛り上がれるように、身内ネタばっかり発信するのがブログ。ここは他の人たちを全く無視して。第二波の人たちには、TwitterやInstagramで情報を発信する。YouTubeは第二波と、ゆうこすを知らない第三波の人たちに向けてって感じですね。
菅本:あと、イベントもよく開催しているんですけど、イベントに来てくれる人たちは一番ゆうこすに近い層。ゆうこすと第一波のギリギリのフチみたいなところ(笑)。
カツセ:もうほぼほぼ「ゆうこす」って距離感なんですね(笑)。
カツセ:フォロワーをファンに変えるコツって、言語化できますか?
菅本:第一波のコミュニティに入りやすい空気をつくることですかね。
菅本:SNSで知った人のコアなファンになるとか、イベントに参加するとかって、ハードルが高いじゃないですか?
カツセ:うん、僕は自分に「会いたい」って言ってくれるようなフォロワー に対しては「この人たちちょっとどうかしてるな?」って思ってます(笑)。
菅本:(笑)
カツセ:僕の場合Twitterがメインなんですけど、Twitterなんてアイコンとプロフィール文と140文字のツイートだけの世界なんですよ。それだけでよく会いに来てくれるなあと。
菅本:うんうん!
カツセ:1,800円くらいのチケット代を払って、「この日のために岩手から来ました!」と言ってくれる人とか、もう感謝をとっくに通り越して「大丈夫か!?」って気持ちに(笑)。そういう人たちが来てくれたときは「来た甲斐があった!」って言ってもらえるように、めちゃくちゃ必死になりますよね……。
菅本:(笑)わかります! ただ、そういう人って多くはないじゃないですか。普通は「私もイベント行っていいのかな」とか「ファンになって応援したりするの恥ずかしいな」とかちょっと躊躇しちゃうと思うんですよ。そういう人たちが第一波に入りやすい空気感を出すために、イベントでハッシュタグを指定してツイートしやすくしたり、私のことを応援してくれる人たちの声をリツイートしたりするとか。
カツセ:ちゃんと同じ気持ちの人がいるよっていうのを見せてあげるんですね。
菅本:そうです。応援してくれたりすることがすごく嬉しいってことを伝えて、そうしやすい空気感をつくるためにリツイートするみたいな。
カツセ:なるほど。自己顕示のリツイートではなく、共感者を安心させるためのリツイートなんですね。いい話だ。
下手くそな動画が、観る人との距離を縮めてくれた
カツセ:言われ慣れていると思いますが、ゆうこすさんは本当にSNSを使うのが上手いなと思っていて。インスタのストーリーを使うテクニックなんて日本でも指折りだと思いますし。多分スマホを使うこと自体すごく得意ですよね? そんなゆうこすさんがスマホじゃなくてPCを使うタイミングって、どんなときなんですか?
菅本:PCはYouTubeにあげる動画編集や、ブログのような長い文章を書くときに使っていますね。
カツセ:動画編集って始める前はめちゃくちゃ難しそうな雰囲気があるじゃないですか。臆したり、他の人にお願いしちゃおうと思ったりしたことはなかったんですか?
菅本:最初は誰かにお願いしようと思って募集したんです。ただ、そのやり方が、自分をコンテンツとして発信する人には合ってないなと思って。
カツセ:それは、実際に外部の方にお願いしてみてわかったことですか?
菅本:そうですね。実際に自分で撮影した素材を渡して編集してもらいました。ただ、そのときお願いした方は普通に仕事もされてたので、編集したものを送ってもらえるのが一週間後とかだったんですよ。そこに私が声を入れて、テロップはこんな感じでみたいなやりとりをしていると、早くても完成に二週間くらいかかるっていう。「新作コスメ買ってきました〜!」っていう動画を撮影して、公開するのが二週間後。
カツセ:雑誌的なスピード感ですね。
菅本:「今日こんなイベントに行ってきました〜!」の動画が二週間後(笑)。
カツセ:もう終わって随分経つよそのイベント!みたいな(笑)。
菅本:自分をコンテンツにして発信するうえでスピード感はかなり重要なので、これじゃダメだと思って。
菅本:あと、自分で編集したことがないから上手く指示ができなかったんですよ。
カツセ:自分の世界観とかも細かく伝えられなかった?
菅本:そうなんです。だからまずは自分でやってみようと。そのときは仕事も全然なかったので(笑)。結果的に下手くそすぎる動画をアップしたんですけど、一生懸命つくったのが伝わったというか……。
カツセ:身近に感じられたんですね。
菅本:そうなんです! プロっぽくない、本当に自分で編集したんだろうなって動画だからこそ、距離を近くに感じてもらえたんですよね。それがたくさんの人に観てもらえた一番の理由だったのかなって思います。
カツセ:なるほど。
菅本:今観たらめちゃくちゃ下手くそなんですけどね(笑)! めっちゃ声が反響するところで撮影しちゃったので、「みなさんこんにちわわわわわ〜」って(笑)。
カツセ:ははははは(笑)!!
菅本:「菅本裕子ですすすすすす〜」。車の音がグワーーーー! みたいな(笑)。
カツセ:(笑)でも、その動画に魅力を感じた人がたくさんいたんですもんね。ご自身で動画の編集をされていて、PCのスペックとかも気にしますか?
菅本:しますね。特に処理速度は。YouTubeって、同じ画面上に関連動画が出てるからすぐに他の動画に飛んでいけるじゃないですか。他の動画に飛ばれないようにするには、いかに観てる人を飽きさせないかが重要だから、動画は細かく切ってテンポよく観られるように編集しているんです。カットするタイミングはコンマ何秒で調整してるので、ちょっとでも反応が遅れたりするとクオリティにも影響が出ちゃうんですよね。なので処理速度はかなり重視しています。
菅本:あとは画面の解像度。例えば、私が解像度の低い画面で編集した動画をYouTubeにアップしたとして、それを観てる人たちの方が解像度の高い画面で観てる可能性がありますよね?
カツセ:そうですね。
菅本:そしたら、私が気づかなかった映り込みに気づいちゃうこともあるなと思って。映っちゃダメなものとか、映したくないものとかが映ってると最悪じゃないですか。そういうものを見落とさないように解像度も高いものがいいですね。
ブランディングは個人からコミュニティへ
カツセ:これまでセルフブランディングの話だったんですけど、最近増えてきているコミュニティのブランディングについても伺ってみたいです。箕輪厚介さんの箕輪編集室や、佐渡島庸平さんのコルクラボ、はあちゅうさんのはあちゅうサロンなど、SNSで著名な方たちは皆さんコミュニティを運営されていて、ゆうこすさんもゆうこすアップデートサロンを始めていると思うんですけど、どういう魅力があるのかなって。
菅本:私がオンラインサロンをつくった理由は、それこそ箕輪さんや佐渡島さん、はあちゅうさんたちがやっていてすごくかっこいいと思ったから(笑)。
カツセ:ははははは(笑)
菅本:それプラスで、ファンの方と密に関われたらいいなくらいの感覚ではじめました。でも実際やってみるとすっごく難しくて。もう泣き崩れたんですけど。
菅本:多分、私もそうだし、カツセさんやしおたんさんも向いてないんじゃないかな。
カツセ:面白い話になってきた(笑)。どうしてそう思われたんですか?
菅本:私やカツセさんはこっちから一方的にコンテンツを提供することに慣れているからだと思っていて。私はファンづくりが得意だし、イベントの参加者も多いからコミュニティづくりも「絶対できる!」って思っていたんですけど、ファンづくりとコミュニティづくりって全然違って。ファンづくりって、ゆうこすからファンに対して一方的な矢印なんですよね。だけど、コミュニティって、集まった人たち同士で何かしら考えてアクションを起こしたり、それをゆうこすと一緒にやったりすることに意味があるじゃないですか。そんな風にできないというか、元々アイドルだったし、ファンの方に何かをお願いするのは申し訳ないって思っちゃって。
カツセ:あー、ちょっとわかる気がします。
菅本:だからこっちで何か企画して、イベントを開いてみんなでやろうってなっちゃう。それはただの……
カツセ:ファンとの交流というか、今までやってきたことと変わらない?
菅本:そうなんです! コミュニティじゃない。
カツセ:参加者が待ち状態になっちゃうってことですね。
菅本:一回、「もうダメだ、私にはできない!」と思って折れた文章を投稿したんですよ。そしたら急に「私PR部やります」とか「動画編集チームつくりましょう」とか、色んな人が手をあげてくれるようになって。
菅本:それからお願いできるようになって、すごく温かい場になってきました。そういう場があることによって、モチベーションにもつながるし、みんながいるから頑張ろうって思えたんです。
カツセ:ゆうこすさんもコミュニティのメンバーも、それぞれに得るものがあるんですね。
夢はSNSで叶えられる。それを証明する。
カツセ:そろそろ時間の関係で最後の質問なんですけど……
菅本:えっ、早い!
カツセ:そういう反応で良かったです(笑)。飽きられてないか心配でした(笑)。
カツセ:SNSの総フォロワー数も100万人を超えて、もう「ゆうこす」っていうキャラクターが確立してきていると思うんですけど、今後そのポジションからどんなアクションを起こしていくのか、展望を聞きたいなと。
菅本:これはいい意味でなんですけど、「モテクリエイターゆうこす」というコンテンツをこれ以上突き詰めるつもりはないんです。
カツセ:ほうほう。
菅本:私はSNSが大好きで、SNSで夢を叶えられたと思っているんですけど、私が夢を叶えただけだと「それは元アイドルのゆうこすだからじゃん」って言われて終わっちゃうと思うんです。私だったら絶対そう思うなって。だから、私が他の誰かをプロデュースして、その人たちがSNSを通して活躍するようになれば、SNSで夢を叶えられることを証明できるんじゃないかなと思っているんです。
カツセ:うんうん。
菅本:実際にもうオーディションもしたんですけど、その子たちを絶対にバズらせたい。しかも、日本だけじゃなくて世界に向けて発信したいと思っています。今積極的にやっている「ライブ配信」にももっと力を入れて、世界と日本をつなぐようなコンテンツをつくりたいなと。それが私の新しいブランディングにもつながってくるかなと思ってるので。
カツセ:ある意味、概念的なものになるというか。「ゆうこす」を発信するというよりは、SNSが夢を叶えるためのツールになり得るということを発信していくイメージですかね。
菅本:そうです。かっこつけなので、ゆうこすは。ゆうこすスゲーって思われたいんです(笑)。
カツセ:ははは(笑)! めっちゃいいですね! ありがとうございました。楽しかったです。
菅本:ありがとうございました!